口腔外科は、歯や歯茎に限らず口唇・頬・舌・顎・唾液腺など口腔顔面領域の病気を扱う診療科だ。虫歯や歯周病の治療を主とする一般歯科に対して、口腔外科は外科的な処置を中心に担う。代表的な対象は以下のとおり。
- 親知らずの抜歯(特に横向きや骨の中に埋まっている難症例)
- 顎関節症(口が開けにくい、顎が痛い、音がする)
- 顎骨の嚢胞や腫瘍、口腔がんの検診・診断
- 顎変形症(受け口、顔面非対称など)の外科治療
- 口の中のできもの、外傷、炎症への対応
公益社団法人である日本口腔外科学会では、専門医・認定医制度を運用している。専門医は歯科医師免許取得後に6年以上の研修を経て、書類審査・筆記試験・手術実地審査という3段階の審査を通過した者に与えられる。しかも5年ごとの更新義務があるため、認定後に学び続けている医師の証ともいえる。医院選びではこの資格の有無が一つの大きな判断材料になる。
よくある悩みと、実際の治療の流れ
親知らずの抜歯
多くの人が最初に口腔外科を受診するきっかけが親知らずの抜歯だ。真っすぐ生えていれば痛みは少ないが、横向きや骨の深くに埋まっている場合は専門的な技術と設備が必要になる。術前にはパノラマレントゲンに加え、歯科用CTで神経の位置との距離を確認する医院が増えている。特に下顎の親知らずは下歯槽神経が近くを通るため、しびれのリスクを避けるためにもCT検査は重要だ。
難症例で手術の侵襲が大きい場合、大学病院や総合病院の歯科口腔外科では全身麻酔での抜歯が選択肢になる。歯科治療が極端に怖い方や、高血圧・心疾患などの持病があり全身管理が必要な方、複数本をまとめて抜きたい方は、全身麻酔や静脈内鎮静法(ウトウトした状態で行う方法)を扱う医療機関を選ぶと安心だ。
顎関節症
「あごが痛い」「口が開かない」「カクカク音がする」といった症状は顎関節症の代表的なサイン。原因は歯ぎしりや食いしばり、頬杖、ストレスなど多岐にわたるため、治療は症状や原因に合わせて組み立てられる。最も一般的なのはマウスピース(スプリント)を使ったスプリント療法で、就寝中に装着して関節への負担を減らす方法だ。ほかにも生活習慣の見直しや、筋肉のマッサージ・開口訓練といった理学療法が組み合わされる。
口腔がんの早期発見
40歳を過ぎると、口の中の異変を見逃さないための検診も大切になる。舌や頬の内側のただれ、白い斑点、治りにくい口内炎などが気になったら、まず口腔外科の受診を検討したい。多くの自治体では40歳以上を対象に口腔がん検診を実施しており、自己負担は数百円程度で済む場合が多い。早期発見できれば治療の選択肢も広がる。
費用の目安をまとめた表
| 治療内容 | 保険診療(3割負担)の目安 | 特徴・注意点 |
|---|
| 親知らずの抜歯(真っすぐ) | 1,000〜2,000円程度/本 | 比較的簡単なケース、一般歯科でも対応可能 |
| 親知らずの抜歯(横向き・埋伏) | 3,000〜7,000円程度/本 | 初診料・レントゲン・CT・薬代を含む概算。難症例ほど高くなる |
| 顎関節症のマウスピース(スプリント) | 3,000〜8,000円程度 | 作製費の目安。調整費は数百円〜1,000円程度 |
| 顎関節症の初診・検査 | 3,000〜5,000円程度 | レントゲン等の検査費用を含む |
| 口腔がん検診(自治体) | 数百円程度 | 40歳以上を対象とする自治体が多い |
| なお、静脈内鎮静法や高機能タイプのマウスピース、インプラント治療などは保険適用外の自費診療となり、費用は医院によって大きく異なる。上記はあくまで目安であり、実際の負担は症状や医療機関ごとに異なる点を覚えておいてほしい。 | | |
医院選びの3つのポイント
1. 専門医・認定医の在籍を確認する
医院のホームページや掲示で「日本口腔外科学会専門医」「認定医」の記載を確認しよう。難症例の親知らずや顎関節症、口腔がんの診断などを任せたい場合は、特に専門医が在籍する医院が安心だ。大学病院や総合病院の歯科口腔外科は、より複雑な症例や全身麻酔での手術に対応できる。
2. 設備と診療内容をチェックする
歯科用CTの有無は、埋没親知らずの抜歯や顎関節の診断精度に直結する。また、土日診療や夜間診療を行っている医院は、仕事をしている方にとって通いやすい。急な腫れや痛みに対応してくれる「急患受け入れ」の有無も確認しておきたいポイントだ。
3. セカンドオピニオンを活用する
抜歯や手術を勧められたら、もう一つの医院でも相談してみるのも選択肢の一つ。複数の医院の説明を聞くことで、治療方針や費用感を比較でき、納得した上で治療を進められる。
抜歯後のケアも成功の鍵を握る
処置が終わってからが実は重要だ。抜歯後のトラブルで代表的なのがドライソケットと呼ばれる状態で、血の塊(血餅)が脱落して骨が露出し、強い痛みが続くことがある。予防には以下の点を意識したい。
- 抜歯後1週間はぶくぶくうがいを避ける
- 喫煙は血餅の形成を妨げるため控える
- ストローで吸う行為も血餅が外れやすくなるため控える
- 当日は激しい運動や入浴、飲酒を避ける
- 上顎の抜歯後は、しばらく強く鼻をかまない
痛みや腫れは通常、処置後2〜3日がピークで、その後少しずつ治まっていく。3日を過ぎても悪化する場合や、ズキンズキンとした強い痛みが続く場合は、早めに担当医へ相談しよう。
最後に
口の中の違和感は、放置すればするほど治療の範囲が広がりがちだ。「まだ大丈夫」と思っているうちに、噛み合わせの悪化や炎症の進行につながることもある。異変を感じたら、まずは地域の歯科口腔外科や、近くの歯科医院で口腔外科への紹介を相談してみてほしい。気になる症状があるなら、それが歯のトラブルであれ顎の違和感であれ、一度専門医の診察を受けてみることが、長い目で見て負担を減らす近道になる。