1990年代に行われた大規模調査では、15歳以上の日本人の約4割が繰り返す頭痛を持っていると報告されています。単純に計算すればおよそ4,000万人。これだけの人が頭痛に悩まされながら、多くが「我慢すれば治る」と放置しているのが現状です。
頭痛には大きく二つのタイプがあります。脳や体に明らかな病気がないのに繰り返す「一次性頭痛」と、くも膜下出血や脳腫瘍など別の病気が原因で起こる「二次性頭痛」です。一次性頭痛は直接命に関わることはありませんが、繰り返すことで仕事や家事、人間関係まで壊していくことがあります。
一次性頭痛の代表格が片頭痛です。片側または両側がズキンズキンと脈打つように痛み、吐き気や光・音への敏感さを伴います。国内の調査では15歳以上の約8.4%が片頭痛に該当するとされ、特に30〜40代の働き盛りの女性に多いのが特徴です。一方、頭全体が締め付けられるように痛む緊張型頭痛は、デスクワークやストレス、肩こりと深く関係しています。
午後になると決まって頭が重くなる。そんな経験を持つデスクワーカーは少なくありません。長時間同じ姿勢でいると筋肉の血流が低下し、痛み物質が蓄積しやすくなります。さらに脳は痛みを最優先で処理するため、頭痛がある日は集中力や判断力が大きく落ちることが知られています。会議の内容が頭に入らない、書類のミスが増える。そんな悪循環に陥っている人は要注意です。
まずは危険な頭痛を見分ける
頭痛の中には命に関わるサインが隠れていることがあります。次のような症状がある場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。
- 今まで経験したことがないほどの突然の激しい痛み
- 意識障害やけいれん、手足のまひを伴う頭痛
- 発熱や首のこわばりを伴う頭痛
- 日ごとに悪化していく頭痛
こうした症状がなければ、多くの頭痛は「我慢して耐えるもの」ではなく「予防・治療できるもの」です。実際、近年は選択肢が大きく広がっています。
治療法の選択肢を比べてみる
従来、頭痛の治療といえば市販の鎮痛薬を飲むか、病院で処方薬をもらうかが一般的でした。市販薬は痛みが出てから素早く対応できる点がメリットですが、使いすぎると「薬剤使用過多による頭痛」を引き起こすリスクがあります。1か月に10日以上、頭痛薬を飲んでいる人は要注意です。
医療機関で行われる治療は大きく二つに分けられます。痛みが起きたときに使う「急性期治療」と、発作そのものを減らす「予防療法」です。特に予防療法は、頭痛の頻度が高い人にとって大きな味方になります。
近年注目されているのが、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)の働きを抑える抗体薬による注射治療です。月に1回の皮下注射で頭痛の頻度を減らすこの治療法は、従来の予防薬に比べて効果が安定しやすく、副作用が少ないとされています。国内では複数の製剤が保険適用されており、3割負担の場合1回あたり1万円台前半〜が目安です。
薬を使わない選択肢もあります。国際頭痛学会のガイドラインで注目されているのが、電気や磁気の刺激で神経の活動を調整する非侵襲的な神経調節デバイスです。国内でも急性期治療用として承認された機器があり、薬を飲みたくない人や副作用が心配な人にとって検討の価値があります。
| 治療法 | 具体例 | 費用の目安(3割負担) | こんな人に向いている | メリット | 注意点 |
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| 市販の鎮痛薬 | ロキソニンSなど | 数百円〜 | 頭痛の頻度が少ない人 | 手軽ですぐ使える | 使いすぎに注意、胃への負担 |
| 処方による急性期治療 | トリプタン系薬剤 | 1回数百円〜 | 片頭痛と診断された人 | 片頭痛に特化した効果 | 医師の処方箋が必要 |
| CGRP抗体薬(予防注射) | エムガルティなど | 1回1.2万円〜1.3万円前後 | 月に数回以上頭痛がある人 | 頻度を大幅に減らせる | 注射のため通院が必要 |
| 神経調節デバイス | レリビオンなど | 医療機関に要相談 | 薬を避けたい人 | 非侵襲で副作用が少ない | 国内では適応が限定的 |
| それぞれに特徴があります。大事なのは自分の頭痛のタイプと頻度を正確に把握したうえで選ぶことです。自己判断で市販薬に頼り続けるより、一度専門医に相談してみるほうが結果的に早い道かもしれません。 | | | | | |
日常でできる頭痛対策
治療と同じくらい大切なのが日々の生活習慣です。ここでは今日から始められる対策を紹介します。
頭痛ダイアリーをつける
いつ、どんな状況で頭痛が起きたのかを記録すると、自分特有の誘因が見えてきます。睡眠不足、生理周期、気圧の変化、特定の食べ物。片頭痛の誘因は人それぞれで、記録することで「雨の日の前日は要注意」といったパターンを発見できます。スマートフォンのアプリを使えば数秒で記録できるので、続けやすいでしょう。30代の会社員Aさんは、3か月の記録で「週末の寝すぎと月曜日の頭痛」の関係に気づき、休日の起床時間を一定にしたところ、発作が減ったそうです。
気圧の変化に備える
日本は梅雨や台風の時期に頭痛を訴える人が増えます。気圧の変化は耳の奥にある内耳が感知し、三叉神経を刺激して片頭痛を引き起こすと考えられています。天気予報アプリで気圧の低下をチェックし、その日は予定を詰めすぎないようにするだけで発作を防げることもあります。
デスクワークの合間に体を動かす
1時間に1度、30秒でいいので立ち上がって首や肩を動かしましょう。首だけではなく、肩と胸の筋膜をセットで伸ばすのがポイントです。デスクワークによる緊張型頭痛は、この小さな習慣でかなり予防できます。
睡眠と食事のリズムを整える
睡眠不足はもちろん、寝すぎも頭痛の誘因になります。休日の起床時間を大きく変えず、規則正しい生活を心がけましょう。空腹による低血糖も頭痛を引き起こすため、昼食を抜くのは避けたほうが賢明です。
専門医に相談するタイミングと探し方
「市販薬が効かない」「頭痛で仕事を休むことが増えた」「月に何度も頭痛がある」。こんな状態が続いているなら迷わず医療機関を訪れるべきです。日本には頭痛外来を設けている病院が各地にあり、脳神経外科や神経内科、内科で専門的な診断と治療を受けられます。
受診の際は、これまでの頭痛の頻度や症状、服用中の薬を整理してから行くと診察がスムーズに進みます。頭痛ダイアリーを持参するのもおすすめです。最近はオンライン診療に対応しているクリニックも増えており、通院が難しい人でも専門医の意見を聞くことができます。
頭痛は決して「気のせい」でも「我慢するもの」でもありません。適切な治療と生活習慣の見直しで、確実に減らすことができます。まずは自分の頭痛のタイプを知ることから始めてみませんか。かかりつけの内科か、お近くの頭痛外来で一度相談してみてください。あなたの毎日が、頭痛に左右されない日々に変わりますように。