日本人の頭痛事情を考えるとき、見逃せない背景があります。ひとつ目は、デスクワークとスマホ利用による姿勢の問題。頭の重さは約4~6kgありますが、スマホを見るために頭が前方に傾くと、首や肩の筋肉にかかる負荷は15度の前傾で約12kg、30度で約18kgまで跳ね上がります。この負荷が肩こりや緊張型頭痛の温床になっているのです。
ふたつ目は、受診率の低さ。日本頭痛学会の調査では、片頭痛の有病率は成人の約8.4%(女性12.9%、男性3.6%)と報告されていますが、医療機関を受診していない患者さんが非常に多いのが現状です。「頭痛くらいで病院に行くのは大げさ」という意識が、適切な治療へのアクセスを遠ざけています。
みっつ目は、薬の使いすぎによる頭痛(薬物乱用頭痛) です。市販の鎮痛薬を頻繁に使っていると、かえって頭痛が慢性化することがあります。月に10日以上鎮痛薬を使っている方は、要注意です。
頭痛のタイプを知る。一次性頭痛の3つの顔
頭痛は大きく「一次性頭痛」と「二次性頭痛」に分けられます。一次性頭痛は、脳や体の他の病気が原因ではなく頭痛そのものが病気であるタイプで、全体の9割以上を占めます。代表的なのは次の3つです。
緊張型頭痛は、日本人に最も多く、成人の約22~30%が経験していると言われます。頭全体がギューッと締め付けられるような鈍い痛みで、肩こりや眼精疲労がきっかけになることが多いのが特徴。デスクワークの合間に首や肩を回す習慣をつけるだけでも、改善が期待できます。
片頭痛は、頭の片側がズキズキと脈打つように痛み、吐き気や光・音・においへの敏感さを伴います。4時間から72時間続くこともあり、20~40代の女性に多いのが特徴です。特に「前兆」と呼ばれる、目の前がチカチカする視覚異常が現れてから痛みが始まるパターンもあります。片頭痛による仕事や家事への影響は大きく、社会的な損失も指摘されています。
群発頭痛は、目の奥がえぐられるような激しい痛みが、数週間から数ヶ月にわたって毎日決まった時間に起こるタイプ。痛みの強さは3つの中で最も強く、じっとしていられないほどの苦痛を伴います。頻度は少ないものの、見逃せない頭痛です。
危険な頭痛を見逃さない。二次性頭痛のサイン
一次性頭痛が9割以上を占める一方で、残りの1割には命に関わる「二次性頭痛」が含まれます。次のような症状がある場合は、迷わず医療機関を受診してください。
- 今まで経験したことのないような突然の激しい頭痛
- 頭痛とともに手足のしびれや麻痺、ろれつが回らないなどの神経症状がある
- 頭部の打撲後に起こる頭痛
- 発熱、首の硬直、発疹を伴う頭痛
- がんや高血圧などの持病があり、症状が急に変わった
くも膜下出血は、1分以内に最強の痛みに達する「雷鳴頭痛」を起こしやすいことで知られています。このような症状があれば、すぐに救急車を呼ぶか、脳神経外科や脳神経内科を受診してください。
片頭痛治療はここまで進化している。日本で使える選択肢
「片頭痛は治らない」と思っている方は、ぜひ医療の進歩を知っておいてください。ここ数年で、日本でも片頭痛治療の選択肢が大きく広がりました。
急性期治療の中心は、これまでトリプタン製剤(スマトリプタン、ゾルミトリプタンなど)でした。発作が始まったらできるだけ早く服用することで、痛みを抑える効果が期待できます。トリプタンが効かない方や副作用が気になる方には、2025年12月に発売されたリメゲパント(製品名ナルティークOD錠)という新しい選択肢があります。これはCGRPという片頭痛に関わる物質の働きを抑える「ゲパント」と呼ばれる経口薬で、急性期治療と発症抑制の両方に使えるのが特徴です。
予防療法の分野では、抗CGRP抗体薬の注射製剤が登場し、月に数回の注射で発作の頻度を減らせるようになりました。また2026年4月には、予防目的のみで使える経口のアトゲパント(製品名アクイプタ)も発売されています。これらの薬は、従来の予防薬(降圧薬や抗てんかん薬など)で効果が不十分だった患者さんにも新たな可能性をもたらしています。
ただし、これらの新薬は薬価が高めに設定されています(リメゲパントは1錠約2900円、3割負担で約880円)。健康保険の適用範囲や自己負担の額は、医療機関ごとに確認するのが確実です。
頭痛タイプ別の治療選択肢
| タイプ | 急性期の主な選択肢 | 予防の選択肢 | こんな人に向く | 注意点 |
|---|
| 緊張型頭痛 | 市販の鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDs) | 筋弛緩薬、抗うつ薬、ストレッチ・整体 | デスクワーク中心、肩こりが強い方 | 鎮痛薬の使いすぎに注意 |
| 片頭痛(軽度~中等度) | 市販の鎮痛薬、トリプタン製剤 | 抗CGRP抗体薬、リメゲパント(隔日)、生活習慣の改善 | 発作頻度が高い、トリプタンが効きにくい方 | 月10日以上の鎮痛薬使用は薬物乱用頭痛のリスク |
| 片頭痛(重度・慢性) | トリプタン製剤、リメゲパント | 抗CGRP抗体薬、アトゲパント、漢方 | 月に15日以上頭痛がある方 | 専門医(頭痛外来)での管理が望ましい |
| 群発頭痛 | 高流量酸素吸入、トリプタン注射 | ステロイド、ベラパミル、神経ブロック | 目の奥の激痛が繰り返す方 | 必ず専門医の診断を |
今日から始められるセルフケア。日本人の生活に合った対策
薬だけでなく、日常生活の工夫でも頭痛は予防できます。特に効果が高いとされるのが次の3つです。
頭痛ダイアリーをつける。頭痛の日時、痛みの強さ、天気、睡眠時間、食べたもの、生理周期などを記録すると、自分だけの「頭痛の引き金」が見えてきます。日本頭痛学会も診断のために記録を推奨しています。紙のノートでも、スマホのアプリでも構いません。記録を持って受診すれば、医師とのコミュニケーションもスムーズになります。
姿勢と作業環境を見直す。スマホを見るときは目線の高さまで持ち上げる、パソコン作業では1時間に1回は立ち上がって首や肩を動かす。これだけでも首や肩の筋肉への負担は大きく変わります。雨の日の気圧変化で頭痛が起きやすい方は、天気予報アプリで気圧の変化をチェックして、調子の悪い日は無理をしないのもひとつの方法です。
睡眠と食事を安定させる。片頭痛の引き金になりやすいのは、睡眠不足だけでなく「寝すぎ」もです。休日に一気に寝だめするより、平日と休日の起床時間の差を2時間以内に抑えるのが理想的。また、空腹も頭痛の引き金になるため、食事は規則正しく。チョコレートやチーズ、赤ワインなどが引き金になる方は、自分に合うかどうか試してみてください。
頭痛外来という選択肢。地域の専門医に相談する
「市販薬でなんとかしている」という状態が続くなら、一度頭痛外来の受診を検討してみてください。頭痛外来は、脳神経内科や脳神経外科の専門医が頭痛の診断と治療に特化して対応する外来です。全国の主要都市にあり、最近ではオンライン診療に対応しているクリニックも増えています。
受診の際には、頭痛ダイアリーの記録を持参すると診断の精度が上がります。CTやMRIなどの画像検査を院内で完結できるクリニックも多く、二次性頭痛の除外診断もスムーズです。
日本の頭痛診療は、ガイドラインが整備され、新薬も次々と登場するなど、まさに変革期を迎えています。「頭痛くらい」と我慢するのは、もうやめにしませんか。まずは自分の頭痛のタイプを知ることから始めてみてください。それが、つらい頭痛から解放される第一歩になります。