歯科医院の中でも口腔外科は「口の中の外科手術」を専門に扱う診療科です。一般歯科が虫歯や歯周病の治療を中心とするのに対し、口腔外科では、親知らずの抜歯、顎関節症、顎骨の嚢胞や腫瘍、外傷、口腔粘膜の病気、さらには顎変形症の外科的矯正など、より複雑な症例を担当します。
多くの方は「親知らずを抜くところ」というイメージを持っていますが、実際にはもっと幅広い病気を診ています。たとえば、口の中の白いできものがなかなか治らない、顎を動かすと音がする、顔や顎をぶつけた後の違和感、入れ歯の下の歯ぐきが腫れる……こうした症状も口腔外科の診察範囲です。
日本では、大学病院や総合病院に口腔外科が設置されているケースが多い一方、近年は「口腔外科専門の歯科クリニック」も増えています。患者さんにとっては、身近な歯科医院から紹介状をもらって大きな病院へ行く流れと、最初から専門クリニックを選ぶ流れの二通りがあります。
日本人が口腔外科を受診するきっかけと悩み
実際に口腔外科を訪れる方の多くは、次のような悩みを抱えています。
まず圧倒的に多いのが親知らず(智歯)のトラブルです。現代人は顎が小さくなってきているため、親知らずが横向きや斜めに生えたり、歯ぐきの中に埋まったままになったりするケースが非常に多いといわれています。完全に埋まっている場合は自覚症状がなくても、手前の健康な歯を押して歯並びを乱したり、虫歯や歯周病の原因になったりすることがあります。
次に多いのが顎関節症です。口を開けるとカクカクと音がする、大きく口を開けられない、顎や耳の周りが痛むなどの症状が出ます。ストレスや歯ぎしり、食いしばりが関係するケースが多く、肩こりや頭痛、首のこりを伴う方も少なくありません。
そして口腔粘膜の疾患も見逃せません。口内炎が長期間治らない、白い斑点が広がる、味がおかしいといった症状の中には、精密検査が必要な病気が隠れている可能性があります。
こうした症状を放置すると、痛みが慢性化したり、治療がより大がかりになったりします。特に親知らずは、炎症を起こしている最中は抜歯ができないことがあるため、症状が軽いうちに受診することが推奨されています。
主な治療と費用の目安
口腔外科の治療内容は、比較的シンプルな処置から入院が必要な大がかりな手術まで幅広く、費用も大きく異なります。日本の保険診療では、医療費の自己負担は原則3割ですが、公的医療費助成制度の対象となる病気もあり、事前に確認しておくと安心です。
| 治療内容 | 概要 | 費用の目安 | こんな方におすすめ | 主なメリット | 注意点 |
|---|
| 親知らずの通常抜歯 | まっすぐ生えた親知らずの抜歯 | 保険適用で比較的負担が少ない | 10〜30代で親知らずに問題がある方 | 外来で短時間の処置 | 術後の痛みや腫れに注意 |
| 埋伏親知らずの抜歯 | 横向きや埋まった歯を切開して抜く | 歯の状態や難易度により幅がある | 水平埋伏や完全埋伏の歯がある方 | 予防的にトラブルを回避できる | 術後1〜2週間の経過観察が必要 |
| 顎関節症の治療 | マウスピース療法、薬物療法など | 症状や通院回数により変動 | 口が開かない、顎が痛む方 | 保存的治療が中心で身体的負担が少ない | 完治まで時間がかかることもある |
| 嚢胞・腫瘍の摘出手術 | 顎骨内の病変を切除する手術 | 病変の大きさにより大きな幅がある | 検査で異常が見つかった方 | 早期発見で歯を温存できる可能性 | 入院を要する場合がある |
| 金額を正確に示すのは難しいですが、保険診療であれば親知らずの抜歯は数千円から1万円台程度で済むケースが一般的です。ただし、難症例や自費診療の場合はこの限りではなく、診察時に見積もりを確認することが大切です。 | | | | | |
初めての受診で押さえておきたいポイント
口腔外科を受診するとき、何を準備すればよいのか不安に思う方も多いでしょう。ここでは実践的なステップを紹介します。
1. まずはかかりつけ歯科医院へ相談する
突然の痛みや腫れなら、まずは最寄りの歯科医院で応急処置を受け、必要に応じて口腔外科を紹介してもらうのが確実です。紹介状があれば、大きな病院の初診時に選定療養費(紹介状なしで大病院を受診した場合に加算される費用)を抑えられることもあります。
2. 問診票にはこれまでの症状を細かく記入する
「いつから、どのような症状があるか」「血が止まりにくい、薬のアレルギーがある」などは必ず伝えましょう。特に血液をサラサラにする薬を服用中の方は、抜歯や手術の前に医師との調整が必要になるため、正確な情報が欠かせません。
3. CTなどの精密検査について理解しておく
親知らずの抜歯では、歯の位置や下歯槽神経との距離を正確に把握するために、歯科用CTでの撮影を行う医院が増えています。精密な診断により、神経損傷などのリスクを減らすことができます。
4. 術後の過ごし方をあらかじめ確認する
抜歯後は、麻酔が切れてから数時間が最も痛みが強くなります。痛み止めは指示された時間に服用し、強いうがいや激しい運動、喫煙、飲酒は控えましょう。歯を抜いた穴にできる血の塊(血餅)は治癒に欠かせないため、これを流してしまうとドライソケットという強い痛みを引き起こすことがあります。
5. 気になる症状は迷わず再診する
術後、心臓の鼓動に合わせるようなズキズキする痛みが続く、発熱や強い腫れがある、出血が止まらないといった場合は、遠慮なく受診してください。
地域の資源を上手に活用する
口腔外科の受診を考えている方は、「近くの病院どこにしよう」と迷うことが多いでしょう。日本では、各都道府県に日本口腔外科学会の認定医や専門医が在籍する施設があります。ホームページで治療実績や得意分野を確認し、自分に合う医療機関を選ぶとよいでしょう。
また、大学病院の口腔外科は難症例の受け入れ実績が豊富で、顎変形症や先天異常に伴う外科的矯正治療では保険診療が適用される場合もあります。逆に、一般的な親知らずの抜歯であれば、地域の歯科クリニックでも十分に対応可能です。症状の程度に応じて使い分けるのが賢明です。
最近では、夜間や休日に診療している口腔外科併設のクリニックも増えており、急な腫れや痛みへの対応も以前より手軽になってきました。受診の前に電話で「親知らずの抜歯は対応可能か」「CTはあるか」などを確認しておくと、無駄足を防げます。
まとめ
口腔外科は「怖い」「痛い」というイメージが先行しがちですが、実際には痛みに配慮した麻酔や、経験豊富な医師による丁寧な処置が行われています。親知らずのトラブルも顎関節症も、早期に相談すればするほど、治療は穏やかで済むことが多いものです。
口の中の違和感や痛みを我慢するのは、もうやめにしませんか。まずは一歩、地域の口腔外科に相談の電話をかけてみてください。その小さな一歩が、あなたの口元の健康を大きく守ることにつながります。