口腔外科は「口のエキスパート」と呼ばれる分野で、歯だけでなくあごや顔、舌、唾液腺といった顎口腔顔面領域の疾患を診断・治療します。一般歯科がむし歯や歯周病、入れ歯などの治療を担うのに対し、口腔外科は外科的な処置が必要なケースを専門に扱います。
代表的な対象疾患は次の通りです。
- 親知らずの抜歯、埋伏智歯(横向きや骨の中に埋まった親知らず)の手術
- 顎関節症や顎関節脱臼の治療
- 顎骨嚢胞、良性腫瘍、口腔がんなどの腫瘍性疾患
- 顎変形症の手術(矯正歯科とのチーム治療)
- 顎顔面骨折、炎症、口腔粘膜疾患
ここで気をつけたいのが、患者さん側の認識のずれです。まず「どの歯科医院でも親知らずを抜いてもらえる」と思い込んでいる人が少なくありません。確かに真っ直ぐ生えた簡単なケースは一般歯科でも対応できますが、神経に近い埋伏智歯は専門的な技術と設備が必要です。
次に、あごの痛みや違和感を「虫歯かな」と自己判断して放置するケース。顎関節症は初期に治療すれば保存的な方法で改善しやすい一方、放っておくと症状が長引くこともあります。さらに、骨粗鬆症や関節リウマチの薬を服用中の方が、リスクを知らないまま抜歯を受けるのは危険です。持病や薬の有無は必ず医師に伝えましょう。
口腔外科で受けられる主な治療と費用の目安
口腔外科とひと口に言っても、治療内容は幅広いです。代表的な治療をまとめたので、参考にしてみてください。費用は保険の種類や医療機関によって異なるため、あくまで目安として捉えてください。
| 治療内容 | 費用の目安 | こんな人に向く | メリット | 注意点 |
|---|
| 通常の親知らず抜歯 | 保険適用で数千円程度 | 真っ直ぐ生えた親知らず | 局所麻酔で当日帰宅できる | 術後の腫れや痛みの管理が必要 |
| 埋伏智歯の抜歯 | 保険適用(歯科用CTを併用すると追加費用あり) | 横向きや埋まった親知らず | 専門医の技術で安全に対応できる | 術後2〜3日は腫れがピーク |
| 顎関節症の治療 | 保険適用(スプリント作成費用など) | あごの痛みや音が気になる人 | 保存的治療が中心で体への負担が少ない | 症状改善まで数ヶ月かかることも |
| 口腔粘膜疾患の診断 | 保険適用 | 口内炎が長引く人 | がんの早期発見につながる | 必要に応じて生検(組織検査)を行う |
| インプラント治療 | 自費診療 | 失った歯を補いたい人 | 見た目と噛む機能を回復できる | 手術と定期的なメンテナンスが必要 |
| ちなみに、歯科用CTの撮影は保険適用でおおよそ3,600円程度、骨の不足を補う骨補填材は自費で1万円前後というケースが一般的です。複雑な手術ほど費用がかさむため、診察時に見積もりを確認しておくと安心です。 | | | | |
実際の治療はどう進むのか
大阪在住の会社員Mさん(30代)は、横向きに埋まった下の親知らずが痛み出し、かかりつけ歯科から大学病院の口腔外科を紹介されました。術前に歯科用CTで神経との距離を確認したうえで局所麻酔による抜歯を行い、腫れのピークは術後2日目。1週間ほどで通常の生活に戻れたそうです。
東京在住の主婦Sさん(50代)は、あごが開けにくく音もするため顎関節症と診断され、スプリント(マウスピース)を使った保存的治療を数ヶ月続けて症状が改善しました。どちらも「最初は不安だったけど、専門医の説明を聞いて納得できた」と話します。
安心できる口腔外科の選び方
専門医の資格を確認する
日本口腔外科学会が認定する口腔外科専門医や指導医は、顎口腔領域の外科治療に高い知識と経験を持つ証拠です。クリニックや病院のホームページに資格が明記されているか確認しましょう。全国の大学病院や歯科大学附属病院、口腔外科を標榜する歯科医院の多くが対応しています。
設備と衛生管理をチェックする
埋伏智歯など複雑な抜歯では、歯科用CTによる立体的な診断が欠かせません。術前に下顎管や神経の位置を正確に確認できるかどうかは、安全性を左右する大きなポイントです。マイクロスコープ(拡大鏡)の有無も確認しておくとよいでしょう。あわせて、院内の衛生管理が徹底されているかも気にかけてください。
説明が丁寧かどうかを見極める
治療内容、リスク、費用、術後の経過を分かりやすく説明してくれるか。初診のカウンセリングを利用して、質問しやすい雰囲気かどうかを確かめるのがおすすめです。難しい専門用語ばかり並べず、こちらの疑問に丁寧に答えてくれる医師なら信頼できます。
抜歯後の過ごし方と注意点
抜歯後の回復は、当日からのケア次第で大きく変わります。術後24時間は強いおうがいを避け、創部の血の塊(かさぶた)を守りましょう。これが取れてしまうとドライソケットと呼ばれる治りの遅れを招き、痛みが長引くことがあります。
喫煙や飲酒は傷の治りを遅らせるため、少なくとも数日は控えるのが無難です。処方された薬は自己判断でやめず、最後まで飲み切ってください。痛みや腫れは多くの場合1週間程度で改善しますが、異常を感じたら早めに担当医へ連絡しましょう。
医療費の負担が気になる場合は、公的な費用負担を軽くする制度も覚えておきたいところです。口腔外科の多くの治療は保険適用となり、窓口負担は原則3割です。1ヶ月の自己負担が高額になったときは高額療養費制度、1年間の医療費が一定額を超えたときは医療費控除を利用できることがあります。親知らずをまとめて抜く場合などは、受付で確認してみてください。
地域の専門医療機関を探すには
まずはかかりつけ歯科で相談し、必要に応じて口腔外科を紹介してもらうのが確実なルートです。かかりつけがない場合は、日本口腔外科学会のホームページで専門医を検索できます。都心部には口腔外科を標榜するクリニックも多く、大学病院や歯科大学附属病院ではより高度な治療も受けられます。
あごの痛みや親知らずの違和感は、放置すると悪化してしまうこともあります。「気になるけれど面倒だ」と先延ばしにせず、身近な歯科医院で一度相談してみてください。あなたの口の不調が、口腔外科の力で軽やかに解決する日はそう遠くないはずです。