日本では成人の約8.4%が片頭痛に悩んでいるとされ、特に20代から40代の女性に多く、男性の約3倍の有病率と報告されている。一方、最も頻度が高いのは緊張型頭痛で、デスクワークやスマートフォンの長時間使用、慢性的なストレスが背景にある。
頭痛は大きく「一次性頭痛」と「二次性頭痛」に分けられる。一次性頭痛には片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛が含まれ、それぞれ治療法が異なる。二次性頭痛は脳腫瘍やくも膜下出血などの病気が原因で起こるもので、緊急性が高い。突然の激しい頭痛、意識障害を伴う頭痛、これまでにないパターンの頭痛は、迷わず医療機関を受診してほしい。
片頭痛の特徴は、片側(または両側)にズキズキと脈打つような痛みがあり、動くと悪化すること。吐き気や嘔吐を伴い、光・音・においに過敏になる。発作は4時間から数日間続くことがある。一方、緊張型頭痛は頭全体が締め付けられるような鈍い痛みで、後頭部から肩・首にかけての筋肉の緊張が関係する。動いても悪化せず、吐き気はほとんどないのが違いだ。
群発頭痛は、目の奥やこめかみを中心に「えぐられるような」激痛が1〜3時間続き、一定期間に毎日出現する。男性に多く、市販の鎮痛薬が効きにくい特徴がある。
セルフケアでできること、できないこと
頭痛の対処法として、まず試したいのが日常生活の見直しだ。睡眠不足や寝すぎ、空腹、気圧の変化、特定の食品(チーズ、チョコレート、赤ワインなど)が片頭痛の誘因となることがある。自分の頭痛がどのような場面で起こりやすいかを記録することは、原因の特定に役立つ。
ツボ押しも日本では古くから親しまれている。緊張型頭痛には、後頭部の髪の生え際にある「風池」や、こめかみの「太陽」が効果的とされる。片頭痛には、頭頂部の「百会」や、手の甲側の親指と人差し指の骨が交わるあたりの「合谷」がよく知られている。指の腹で気持ちよいと感じる程度の力で押し、強く押しすぎないことがポイントだ。
首や肩のストレッチ、静かな場所での休息、こまめな水分補給も基本的な対策。ただし、こうしたセルフケアには限界がある。市販の鎮痛薬を月に15日以上、トリプタン系薬を月に10日以上使用していると、かえって頭痛が慢性化する「薬物乱用頭痛」を引き起こすリスクがある。市販薬に頼る頻度が増えている場合は、専門医への相談を検討すべきタイミングだ。
専門外来と治療の選択肢
「頭痛外来」は、日本頭痛学会の専門医・指導医が在籍するクリニックで、脳神経内科や脳神経外科を標榜する医療機関に設置されていることが多い。診察では問診票への記入、必要に応じてMRIなどの画像検査が行われ、脳の病気が原因でないか(二次性頭痛でないか)を確認した上で、頭痛のタイプに合わせた治療が提案される。
治療の選択肢は年々広がっている。急性期治療薬としては、従来のトリプタン系薬に加え、2022年に発売された「レイボー錠(ラスミジタン)」が新しい選択肢として注目された。さらに2025年には、急性期治療と発症抑制の両方に適応を持つ経口薬「ナルティークOD錠(リメゲパント)」が国内で発売され、片頭痛の治療選択肢が一層広がっている。
予防療法としては、CGRP関連抗体製剤(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグなど)が月1回または3ヶ月1回の注射で投与される。これらは片頭痛の発作が月4日以上あり、既存の予防内服薬で効果が不十分な人が保険適用の対象となる。費用の目安は、3割負担で1回あたり約1万円〜1.5万円程度とされている。
| 治療カテゴリー | 代表的な選択肢 | 投与間隔 | 向いている人 | メリット | 注意点 |
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| 急性期治療(トリプタン系) | スマトリプタン、ゾルミトリプタン等 | 発作時 | 片頭痛の発作がある人 | 実績が多く効果が安定 | 血管収縮作用があるため心血管疾患の人は要相談 |
| 急性期治療(ジタン系) | レイボー錠 | 発作時 | トリプタンが効きにくい人、心血管疾患のある人 | 血管収縮作用が少ない | 2022年発売のため長期データは蓄積途上 |
| 急性期+発症抑制(ゲパント系) | ナルティークOD錠 | 発作時/予防目的で定期服用 | 発作と予防の両方に対応したい人 | 経口薬で両方の適応を持つ | 2025年発売、今後の臨床経験の蓄積が待たれる |
| 予防療法(CGRP抗体) | エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ | 月1回または3ヶ月1回の注射 | 発作が月4日以上あり予防内服が不十分な人 | 通院頻度を減らせる選択肢もある | 保険適用の条件を満たす必要がある |
| 診療の流れとしては、まず日本頭痛学会のホームページなどで「頭痛専門医」の在籍する医療機関を探すのが近道だ。初診の際は、頭痛の頻度、痛みの場所と性質、随伴症状、市販薬の使用状況をメモして持参すると、診察がスムーズに進む。頭痛ダイアリー(記録帳)を活用しているクリニックも多く、アプリで記録を続けている患者も増えている。 | | | | | |
職場での対策と周囲の理解
頭痛は個人の健康問題にとどまらず、仕事の生産性にも大きな影響を与える。発作時に痛みや随伴症状で業務が中断されるだけでなく、発作への不安から予定を立てづらくなるという社会的な負担も指摘されている。近年は健康経営の観点から、企業が従業員の頭痛対策に取り組む動きも見られる。
テレワークの普及により、自宅で仕事をする人が増えたことで、照明や画面の明るさ、姿勢を自分で調整できるようになった面はある。一方で、オンライン会議が増え、画面を見つめる時間が長くなったことで、眼精疲労をきっかけとした緊張型頭痛を訴える人も少なくない。デスク環境の見直し(モニターの高さ、照明、適度な休憩)は、誰にでもできる対策の一つだ。
職場で頭痛を打ち明けにくいと感じる人は多い。しかし、片頭痛は障害度の高い疾患として世界的な調査でも上位にランクされており、「我慢すれば治る」というものではない。周囲の理解を得るためには、「発作時には静かな場所で休む」「業務を調整してもらう」といった具体的な対応を事前に共有しておくことが有効だ。
受診のタイミングと地域の医療資源
以下のような場合は、自己判断で様子を見ずに専門外来への受診を検討してほしい。頭痛の頻度が増えている、市販薬の使用回数が増えている、仕事や家事に支障が出ている、頭痛のパターンが変わった、吐き気や視覚の異常を伴う――こうしたサインは、適切な治療を始めるきっかけになる。
札幌市のように、日本頭痛学会の専門医・指導医が在籍するクリニックは全国の主要都市に点在している。駅から近い立地や駐車場の有無、MRI検査の可否、予約制かどうかといった点は、通院のしやすさに直結する。日本頭痛学会の専門医リストや、各自治体の医療機関情報サイトで「頭痛外来」をキーワードに検索すると、地域の選択肢が見つかる。
頭痛は我慢するものではなく、適切な診断と治療で改善が見込める症状だ。自分の頭痛のタイプを知ることから始めて、必要な場合は迷わず専門医の門を叩いてほしい。発作のない日々を増やすことは、仕事のパフォーマンスはもちろん、家族や友人と過ごす時間の質も変えていく。