日本の口腔外科は、歯科の中でも外科的な処置に特化した診療科です。虫歯や歯周病を中心に診る一般の歯科医院とは異なり、親知らずの抜歯、顎関節症、口腔粘膜の異常、嚢胞や腫瘍、顎の骨折や変形まで幅広く扱います。
実際に受診を考えるきっかけとなるのは、次のようなケースが多く見られます。
- 横向きに生えた親知らずが原因で、歯ぐきの腫れや痛みを繰り返す
- 口を開けると顎に音がしたり、開けにくくなったりする
- 舌や頬の内側に白い斑やしこりがあり、なかなか治らない
- 骨粗鬆症や関節リウマチの治療薬を服用しており、抜歯が心配
特に親知らずは、まっすぐ生えずに歯肉や骨の中へ埋まったままの状態(埋伏智歯)になるケースが多いのが特徴です。埋まった親知らずは清掃が難しく、手前の歯に虫歯を作ったり、炎症を繰り返したりする原因になります。下顎には神経や血管が通る下顎管があるため、むやみに抜くとしびれなどの合併症を起こすリスクがあります。このような症例では、歯科用CTで神経との位置関係を確認しながら処置できる口腔外科が適しています。
舌や頬の内側にできる白板症や扁平苔癬などの粘膜疾患は、放置すると口腔がんへ進行する可能性が指摘されています。2週間以上治らない口内炎や、痛みを伴わないしこりは、専門的な検査が必要です。早期発見につながる口腔がん検診の受診も、50代以降は特に検討したいところです。
主な治療と費用の目安
口腔外科の処置は、多くが健康保険の対象です。日本の健康保険制度では、親知らずの抜歯や嚢胞の摘出、顎関節症の治療などは保険診療で受けられます。自己負担は年齢や収入に応じて1割から3割程度になります。
| 治療内容 | 保険適用 | 費用の目安 | こんな人に | メリット | 注意点 |
|---|
| 通常の抜歯 | あり | 3,000〜8,000円程度(3割負担) | 虫歯や歯周病で保存が難しい歯がある人 | 外来で短時間で終わる | 根の状態によっては難航する |
| 親知らずの抜歯 | あり | 初診料3,000〜5,000円+処置費(3割負担) | 腫れや痛みを繰り返す人 | CTで神経との位置を事前確認できる | 複雑な症例は入院・全身麻酔になる |
| 顎関節症の治療 | あり | 症状や治療法により変動 | 口を開けにくい、音がする人 | マウスピースや運動療法が中心 | 改善まで時間がかかる |
| 口腔粘膜疾患の検査 | あり | 検査内容により変動 | 治らない口内炎がある人 | 組織検査で良性・悪性を判定する | 大学病院では紹介状が必要 |
| 顎変形症の手術 | あり | 入院を含めて保険適用 | かみ合わせと顔貌の両方が気になる人 | 矯正歯科と連携して治療を進める | 術前矯正に1〜2年かかる |
| この表はあくまで目安です。複雑な埋伏智歯の抜歯や、基礎疾患を持つ人の処置は、大学病院や口腔外科を専門とする病院で行われることが多く、入院が必要になる場合があります。費用が気になる方は、受診時に治療内容の見積もりを確認すると安心です。 | | | | | |
実際の流れと体験談
ここからは、実際に口腔外科を利用する流れと、患者さんの声を紹介します。
東京に住む30代のAさんは、横向きに生えた親知らずが原因で、半年に一度は歯ぐきが腫れていました。かかりつけの歯科医院から「ここでは対応が難しいので、口腔外科のある病院を紹介します」と言われ、紹介状を持って大学病院を受診。歯科用CTで下顎管との距離を確認したうえで、全身麻酔による抜歯がすすめられました。入院は2泊3日で、手術後の腫れは3日目をピークに、1週間ほどで落ち着いたといいます。「腫れを我慢していた時期がもったいなかった。専門の先生に任せてよかった」と話していました。
一方、顎関節症で悩む大阪の50代男性Bさんは、口を開けると音がし、朝に口が開けにくい症状がありました。口腔外科ではマウスピースを使った治療と、顎の運動を中心としたリハビリを提案され、数か月かけて症状が改善。「急に治るものではなく、長く付き合うつもりで通うのが大事だと実感した」と振り返ります。
受診の流れはおおむね次のとおりです。
- かかりつけの歯科医院で相談し、必要に応じて紹介状をもらう
- 口腔外科のある大学病院や地域の基幹病院に予約を入れる
- 初診で問診とレントゲン、歯科用CTなどの検査を受ける
- 治療方針を決め、手術が必要なら日時を調整する
- 術後の経過観察を続ける
大学病院や大きな病院では、紹介状がないと初診を受け付けない場合が多く、かかりつけ歯科で紹介状を用意してもらうのが一般的です。口腔外科を探すときは、日本口腔外科学会の専門医・認定医が在籍しているかを確認すると、より安心できます。
地域の医療機関を上手に使うために
日本の医療制度では、かかりつけの歯科医院から地域の大学病院や総合病院へつなぐ流れが一般的です。都市部では口腔外科を標榜するクリニックも増えており、親知らずの抜歯であれば外来で対応できるところも少なくありません。地方では県立病院や大学病院が中心となるため、通院距離や入院の可能性も含めて計画を立てることが大切です。
基礎疾患がある人も、あきらめる必要はありません。高血圧や糖尿病、心臓病の治療薬を服用中でも、休薬せずに対応してくれる病院があります。抗血栓薬を飲んでいる人は、入院下で抜歯を検討できる施設も増えています。自分だけで判断せず、医科の主治医と口腔外科医の両方に相談しながら進めましょう。
痛みや腫れは、早めの受診で大きく軽減できます。「まだ大丈夫」と先延ばしにするほど、処置は複雑になり、時間も費用もかかりがちです。気になる症状があるなら、まずはかかりつけの歯科医院で相談してみてください。口腔外科への紹介が必要かどうか、専門医のいる施設を案内してもらえます。口の中の不安を抱えたまま過ごすより、一度専門家の目で確認してもらうことをおすすめします。